ある日突然、杖をついて歩く生活になりました。
膝の半月板損傷で、整形外科の治療やリハビリに通っているのですが、痛みが続くので、杖を購入しました。
痛みは、薄紙を剥がすように薄れてきているのですが、まだまだ杖が欠かせません。
はや2カ月を過ぎて、杖をついて歩く生活にも、だいぶ慣れてきました。
まず、歩く速さが違うので、当初は戸惑いました。
目的地まで行く時間の感覚が、まるで違うのです。
遅れたからって、急ぐことができませんし、あきらめて、コツコツ歩くしかありません。
以前の感覚で予測していたことが、予測通りにならなくても受け入れる生活にも慣れてきた頃、「へー!?」という出来事がありました。
仕事から帰って、車から降りて杖をついて歩いていると、「こんばんは」と声をかけられました。
「こんばんは」と返事をすると、重ねて「寒いですね」と声がかかります。
どなただろうと見ると、同じマンションに住む若い男性で、小さい頃から知っている知的障がいのある方でした。
これまで、こちらから挨拶をしても、聞き取れないような小さな声で返事をして逃げるように離れて行かれる方でしたのに、そんな方が、大きな声で挨拶をしてくれて、「寒いですね」とまで言われたのですから、ビックリしました。
杖をついて歩く私を見て、「危ない人ではない」「怖い人ではない」と感じられたから、安心して挨拶されたような気がしました。
そういえば、その方だけではなく、駐車場を歩いていて挨拶を交わす機会が増えたような気がします。
ゆっくりゆっくり歩くので、すれ違うまでに、挨拶を交わすすき間ができたということでしょうか。
ゆっくりゆっくり歩きながら挨拶を交わした後って、不思議と柔らかくて優しいポワ~ンとした気持になるのですよ。
さっさと歩いていた頃の、挨拶の後の「マナーを守った」という気持とは違うのです。
私たちは、「遅い」よりも「速い」方が有利だし、「弱い」よりも「強い」方が勝つという価値観に浸りきっていますが、意外や、そうでもない世界があることをジブンゴトとして実感できました。
トランプさんには、理解できないだろうなあ。この心地よさは。